暑さ寒さも彼岸まで
こんにちは、院長の阿部哲夫です。
お彼岸を過ぎたのに、まだ暑い日が続いています。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉は以前は昔の人はいいことを言うものだと感心したものですが、今ではあまり当てはまらくなりそうです。10月に入ってもまだ30度を超える日があり、衣替えもいつしていいかわかりません。私は今日も半そでのシャツで出勤してしまいました。
最近の話題は、本来ならば自民党の総裁選なのでしょうが私の中ではなにか敗者復活戦の様相であまり盛り上がりません。誰がなっても、目新しい政策を打ち出せるとは思えず、少数与党のため野党といかに協調していき国会をうまく運営していける人材が求められるのでしょう。
それよりも今私が興味を持っているのは11月1日に行われる講演会です。この講演会は、当院が東京都から認知症疾患医療センターとして指定されてから10年となることを記念して行われるものです。医療や介護などにかかわる専門職向けの講演会ですが、10周年なので私自身が話をさせていただくことにしました。例年ですと大学の先生や認知症にかかわる専門医の先生にお話しいただくのですが、せっかくの機会なので自分でやることにしたのです。
この講演の中で、医師となって40年余り開業して28年の認知症医療を振り返ってみることにしました。私が卒業したばかりのころ、認知症がまだ痴呆と呼ばれていたころでした。認知症の病態はある程度分かっていましたが、卒業直後はまだアリセプト(ドネペジル)といった抗認知症薬は発売されておらず、ホパテ、アバン、カランといった今では認知症には無効とされている薬剤を処方するしかなかった時代でした。のちに薬効が否定される薬剤なので、ほとんど効果はありません。その当時は、認知症となっても老化だから・年だからといって家族や本人に納得してもらうしかありませんでした。
現在、認知症の治療の中心となっている薬剤が発売になるのは1999年になってからです。当院が開業したのが1997年ですから開業して3年目のことでした。このアリセプト(ドネペジル)という薬は、脳内のアセチルコリンという物質を増やす薬で、この薬が出てようやく認知症に対する効果を実感できる薬が発売されたのです。その後、2011年にはガランタミン、メマンチン、リバスチグミンといった抗認知症薬が発売されますが、アリセプトが出てから次の薬が出るまで実に12年の歳月がたっているのです。これを見るだけでいかに認知症の治療薬の開発が大変なことがわかります。
その後、医薬品メーカーは認知症の治療薬の開発に多額の資金と労力をつぎ込むのですが、この次の世代の認知症の薬が発売されたのが、2023年12月ですからさらに12年間の期間が必要だったのです。この薬はレカネマブといって、アルツハイマー型認知症の発症の原因とされているβアミロイドを除去する作用があるといわれ、アルツハイマー型認知症の根本治療につながるのでは期待されている薬です。ただこの薬の効果にも限界があり、効果としては、完全に治癒させることはできず発症を遅らせることができることが期待されるとされています。また多くの制限があり、まだ処方できる人も限られております。
当院でも現在数名の方が治療を受けています。従来の薬が対症療法的だったことを考えると、この薬は根本治療に迫る効果があり画期的です。こうしてみるだけでもこの40年で認知症の治療は大きく進歩したといえると思います。こうした観点(新薬開発12年説)からみるとさらに12年後の2035年には、真の意味での認知症治療薬が開発されているかもしれません。そのころには私も78歳、その未来の薬の恩恵にあずかれることを大いに期待しています。2035年には、早期発見早期治療すれば認知症も治癒可能な病気になっているのかもしれません。