痛みとうつ病

Tetsuo Abe

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こんにちは、院長の阿部哲夫です。
3月になり、だいぶ暖かな日も増えてきました。かとおもうと、急に寒くなり三寒四温とはよく言ったものです。こうして徐々に本格的な春になると思うと楽しみです。桜の開花も今月中にはあると思うと、今年はどこの花見に行こうかと思案します。

いまは、テレビ新聞やネットのニュースをみても世間は暗い話題ばかりです。兵庫県知事選挙では、公選法違反があったのではないかとか、維新の県会議員があやふやな情報を他党の党首にリークしたとか、ウクライナとアメリカが交渉決裂したとか、なにかきな臭いニュースばかりで目をそむけたくなります。

だから現実逃避というわけではありませんが、スキーに行ってきました。私が若いころは、空前のスキーブームで、若者のほとんどがスキーに行くといっていいほどの過熱ぶりでした。恥ずかしながら私もその一員で、冬になるとスキー場の積雪情報が気になったものです。しかし、クリニックを開業してからは、怪我のための休診が怖くて冬はスキーに行くという習慣から遠ざかってしまいました。ところが久々にスキー場に行ってみると、晴れてさえいれば頂上は絶景です。冬山登山をしなくても冬の素晴らしい景色を見ることができ、しかも同時に運動までできるのです。これはフレイル防止にはうってつけなのではないかと思い立ち、ウインタースポーツとしてのスキーを復活しようと決心しました。

当初は、準備も面倒で用具の中には古くなって使えないものも多く、スキーウエアも時代遅れになっていました。それでもウエアは古臭くても滑れればいいと思い、スキーブーツとスキー板だけは新調して、今年二度目のスキーに挑戦しました。しかし、いざ滑ってみると新調したスキー靴が足の一部にあたってしまいしばらく滑っていると痛みが出てくるようになってしまいました。当初は我慢して滑っていたのですが、痛みをかばって滑るため長距離を滑れません。痛みで踏み込みができずスキー板もうまく操作できないためあまり上手に滑れず楽しくもありません。そうこうしているうちに気持ちまで沈んでやる気も無くなってきてしまいました。「だいぶ下手になった、年齢も年齢だし、やはりスキーは引退かな」こうした悲観的な考えが頭の中をめぐってしまい、早々に帰りたくなってしまいました。

しかし折角来たのだからもう少し滑ろうと思い、思い切ってレンタルのスキー靴を借りてみました。レンタルのスキー靴は同じサイズでも使用頻度が多いために、内側の部分がかなり圧迫されていてスペースが広がっています。そのせいか履いてみると全く痛みを感じません。この痛みの消失と同時に悲観的な考えもスーッとなくなり、もうすこし滑ろうという気になっていたのです。そして滑ってみると、痛みがなくなったせいかスキー板の操作もスムーズになり、その後はスキーを楽しむことができました。

このように痛みが原因で気持ちが沈んでしまうことはよく知られている事実です。頭痛や腰痛などの痛みが持続しているだけでうつ病になってしまうこともあるのです。我々の外来でもこうした患者さんを見かけることが時々あります。また逆に、うつ病になると痛みに敏感となってしまい、頭痛や腰痛がいつもよりも痛く感じることもあります。このように痛みとうつは密接に関係しています。その証拠の一つに、痛みの軽減を目的に整形外科領域では、デュロキセチンという本来は抗うつ薬である薬を使うことがあるのです。歯痛や頭痛、腰痛などは放置せずに痛みの原因を探ると同時に痛みを軽減することが大事です。放置するとうつ病の原因となったり、痛みがうつ病の症状であったりすることがあるからです。私はと言えば現金なもので、痛みがなくなりスキー靴を調整すれば楽しく滑れると分かってからは、スキーをやめようという考えは吹き飛んでしまいました。今は早くスキー靴の調整をして来季のスキーに備えたいと考えています。