人間にしかできないこと

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藤井聡太名人が将棋界の8大タイトルをすべて制するかもしれないと話題になっています。将棋の話を極力避けてきた梅津ですが、いよいよという時が迫る今回はお許しください。

8大タイトルのうち最後となる王座戦が8/31から始まりました。よほどのことがない限り、8大タイトルを手にしてしまう気がしていたのですが、なんと、「軍曹」の異名を持つ永瀬王座に初戦は負けてしまいました。ただそこは5番勝負。藤井名人有利は変わらないと思います。

ところで「藤井名人とAI、どっちが強いの?」と考える人がいるかもしれません。ただこの問題は私としては、あまり比べるものではないと思います。AIはあくまでも高度な計算機で、どんなに発展しても人間のように考えられない、と思っています。

その理由は、思考の面において、「人間にしかできないこと」があると思うからです。AIがどんなに発展しても持てないもの、それは人間の「美意識」です。私が言ったわけではなく、今年の名人戦第四戦のリアルタイム大盤解説をした中田功八段の解説動画がyoutubeに上がっていますので、ご参照ください。

動画では、棋戦も終盤に差し掛かり、夕食休憩に入ろうかという時間帯に指された藤井さんの一手を見た中田八段が、「渡辺元名人はこの一手で投了する」なぜならプロ棋士の「美意識」によってと断言します。さらに、会場にいる人に次の一手を考えてもらうミニコーナーをやらないと宣言してしまったのです。進行役は困惑してしまい、必死で食い下がりましたが、中田八段は、AIがたどり着かない一手の意味を、渡辺元名人が受け取って、投了すると予言したのです。

そして、その予言通り、渡辺元名人から「負けました」の一言が発せられました。

AIが今後も、何億手何兆手それ以上に指し手を読めるようになっても、この「美意識」を持つことや、誰かと言葉の内に込められた「メッセージ」を理解することはない、と私は思います。藤井名人も渡辺元名人も、ただ単純にAIのように深く読めるから強いというわけではありません。深く読みながらその一手の「メッセージ」を理解しているから「強い」のだと思います。

人と人との関わりで生まれるものに、0と1のように単純な善悪はないように思います。そして、「相手をわかろうとする姿勢」は人間だけが持つものであり、そこで初めて「美意識」や「メッセージ」も生まれます。私も、ロボットを目指す方針に変わらない限りは(わかりませんが)、なんとかそのあたりは大事にしたいな、と思うこの頃です。