ネガティブ・ケイパビリティ

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9月といえば、秋といえば、読書ということで本の紹介するのがパターン化していまして、今回も一冊面白かったものをご紹介します。

『ネガティブ・ケイパビリティ – 答えの出ない事態に耐える力- 』という精神科医で作家の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんの本です。いきなりのカタカナ英語で恐縮ですが、ケイパビリティ(capability)とは、一般的には「能力」「才能」「手腕」「力量」といった意味です。 それにネガティブという言葉が最初に付きますので、ただのマイナス思考なんじゃないかと思われるかもしれませんが、その意味は「裏返しの能力」です。論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を回避せずに耐え抜く能力のことです。

なんだか難しい話ですが、何の「裏返し」かと申しますと、昨今は多くのものがマニュアル化され、良い情報に行き着けば、簡単に解決できることこともあります。特にネットさえ繋がれば、家電の使い方からの今日の献立まで、素早く答えが出てきます。言ってみれば、「なんでも分かった気持ち」になるのが簡単になりました。「ネガティブ・ケイパビリティ」はその逆に、はっきりとした解決をしないこと、決めつけないまま放っておけること、その力を指します。

シェイクスピアがその能力に長けていたという一節を読み、ハムレットファンの私はグッと惹かれてしまった次第です。シェイクスピアは、その宙ぶらりんの状態でいろいろと思考を巡らせることで素晴らしい作品群を生み出しました。まさしく生きるべきか死ぬべきかを悩みながら耐えるハムレットそのものです。そして、おそらくはその力の根源となっている決め台詞があります。

「いま来るなら、あとには来ない。あとで来ないなら、いま来るだろう。いま、来なくてもいずれは来る。覚悟がすべてだ。(The readiness is all)」にあらためてシビれてしまいます。

Photo by Max Muselmann on Unsplash