いよいよ春ですね
こんにちは、院長の阿部哲夫です。
3月になりました。いよいよ春です。この春には、ようやく待ちに待った脱コロナを実現できそうです。5月には、新型コロナ感染症がいよいよ5類になります。従来のインフルエンザ並みの扱いとなり、これまでのような窮屈な生活からは少し解放されそうです。しかし、新型コロナ自体が完全に終息したわけではないので油断は禁物です。医療機関では、依然としてマスク着用が推奨とされています。当院でも、多くの高齢の方や基礎疾患をお持ちの方が来院されることから、引き続き待合室ではマスクの着用をお願いしたいと考えております。ご協力のほどよろしくお願いいたします。
暗い話になってしまいますが、先日私の親友でもあったギタリスト、前原孝紀氏が末期のすい臓がんで息を引き取りました。当院のデイケアやオレンジカフェでは年に数回はライブを開催してもらっていたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。ライブだけではなく、当院の倫理審査委員会の委員も務めてもらっていたので、会議で一緒になったスタッフも多数だと思います。彼は、早稲田大学を卒業後就職しましたが、会社勤めが合わず半年で退職。その後は、ずっとギター一本で生活してきた男です。サラリーマンを辞めてからは音楽関係以外の仕事は一切せず、音楽だけに向き合ってきた人生でした。どんなに、酒を飲んで二日酔いでもギターの練習だけは欠かさず、毎日数時間はギターに触っていたと言っていました。彼の音楽に対する真摯な姿勢には、自分も精神医療にはこのような姿勢で臨んでいるのだろうかと、何度も自問自答しことを記憶しています。
その一方では、音楽以外には全く頓着しない人でもありました。特に健康には無関心でした。両親を若い時にがんで亡くしているにもかかわらず、彼は自分の健康には興味がないようでした。むしろ、両親を早く失くしたころから無常観をいだいていたのかもしれません。酒を浴びるように飲み、たばこも吸う。健康診断もうけないし虫歯も抜けてしまうまで放置していました。そのためか、演奏ができなくなる直前までライブに参加し、本当に演奏ができなくなった時にはすい臓がんのステージⅣでした。いよいよとなって年明けに受診した時には、すでに背骨まで転移しており手の施しようがなかったといいます。ほどなく入院、入院後一か月もたたないうちに令和5年2月4日パートナーに見送られあの世に旅立ってしまいました。
前原さんは、音楽以外には全く無欲の人でした。すごく貧乏なのに本当に金銭欲も物欲もない人でした。穴の開いた靴下や靴を履いていたので、わたくしのお古の靴や靴下をさしあげると本当にうれしそうに使ってくれていました。私のお古の度のあっていない眼鏡を使ってくれていたのも懐かしい思い出です。彼は本当に貧乏でしたが、いつも心は満たされて豊かだったのではと思っています。好きな音楽だけやって生活する。好きなことだけやって、それを仕事にできるのは、本当に幸せだったのではと思います。常々、彼の様にしっかりとした価値観を持って人生を生きることができればといつもうらやましく思って尊敬していました。彼自身も全くストレスはないと語っていました。私も、若いころからの夢だった精神科医という仕事につけたのは本当に幸運だったと思っています。しかし、そうはいっても診療所の運営という現実もあり、理想ばかりは追い求めるわけにはいきません。そういう意味でも、彼は自分の理想にだけ生きた男だったと思います。
そしてライブの終了後に、彼とマスターそして常連のメンバーと酒を酌み交わすことが本当に楽しみでした。彼が亡くなってからというもの、彼のことを想い出さない日は一日もありません。これからも、彼の音楽や彼の生きざまは、ずっと私の心の中で生き続けるのだと思います。そして彼と過ごした貴重な時間を自分にとっての宝物として心の中に大事にとっておこうと思っています。さようなら、前原さん。そして本当にありがとう。
(彼への追悼文をどこかに残しておきたかったので、この場をお借りしました。こうした私的な文章となったことをお許しください)