五月晴れ
こんにちは、院長の阿部哲夫です。
ゴールデンウイーク後半はいい天気でしたね。まさに五月晴れとはこのことだといわんばかりの天気でした。皆さまはどう過ごしましたか?私は近場ですが、少しばかり遠出してきました。いつも遠出するたびに、天候に恵まれずに見たくもない美術館などを巡っていたことが多かっただけに、今回は自然を堪能できリフレッシュすることができました。
5月5日の夜、NHKである有名バンドのボーカルがうつ病になったというドキュメンタリーを放送していました。主人公はサカナクションのボーカル山口一郎さんでした。彼らの楽曲は、あまり聞いたことがなかったのですが、この機会に改めて聞いてみるとなかなか曲も詞も素晴らしいものでした。
彼がうつ病になってしまった原因を番組はいろいろと分析もしていましたが、一つの要因としてバンドがメジャーとして売れるために、彼が本来の自分ではない自分を演じざるを得なかったことを取り上げていました。バンドの中心メンバーとしてそしてボーカルとして、バンドを盛り立てないといけないという意識が強い余り、本来の自分ではない自分を背伸びして演じ続けることに疲れ切っていたことに加えて、コロナ禍という災難が加わり発症してしまったというのが番組の分析でした。
人間は一つのストレスに対しては何とか耐えられるものですが、これが2つ3つとなると耐えられなくなり、うつ状態となることがよくあります。仕事のストレスに加えて、家庭の問題が加わる、あるいは健康問題に加えて経済的問題が加わるなどです。こうした2重苦3重苦の状況になると、心もさすがに音を上げることが多いようです。サカナクションの山口さんの場合も同様だったと思います。何とか売れるためにと本来の自分とは別の人格を演技していたことに加えてコロナ禍によりバンド活動が思うようにできないといった2重苦が発病の原因だったのだと思います。
最初は音楽活動が全くできなくなり、コンサート活動もしばらく休止が続いたようです。そして薬に抵抗があり、医師の処方薬を飲めなかったそうです。その後どんどん症状が悪化し、やむを得ず薬を飲み始めてから少しずつ回復したのだといいます。ようやく回復してきてツアー再開を決めても、リハーサルに突然来られなくなったりでメンバーが一日待っているだけとなったり苦難の連続です。それでもメンバーは山口さんを責めるでもなく、ただじっと彼の復活を待ち続けます。メンバー全員が自分たちよりも彼自身が一番つらいことを知っていたからでしょう。彼無しではバンド活動そのものができないという唯一無二の存在であることも大きいとは思います。しかしそれ以上に、彼の音楽への情熱やひたむきさを知っていたからこそだったのだと思います。一般の会社員とは状況は違うのかもしれません。しかし、仕事に向かいたくても足が向かない、仕事をしても能率が悪い、こうした状況は我々でも同じだと思います。
最近は、企業もうつ病への理解は以前よりも改善されてきていますが、それでもまだ理解が十分とは言えない職場も多いと思います。家族も同様です。番組を見ていてバンドのメンバーの理解があったからこそ彼は復活できたのだと強く感じました。一般企業では、なかなかこうはいかないのかもしれませんが、当事者のつらさを理解することがなければ、職場復帰がより難しくなると思います。サカナクションの山口さんも、今回復帰できたからといってこれからも前途は多難かもしれません。心が五月晴れとはいかないかもしれません。しかし、最後に彼が「この病気をなくそうとするのではなく、うまく付き合っていくしかない」といっていた言葉がささりました。このうつ病という苦難とうまく付き合っていく中で、きっと彼の音楽は更に深みを増すのではないでしょうか。彼のカミングアウトがうつ病の理解につながり、そして多くのうつ病患者さんの希望となることも期待しています。