こんにちは、院長の阿部哲夫です。
朝の気温が少し上がってきているのか、布団から出ることがそれほど苦痛ではなくなってきているような気がします。もう暦の上では、春です。まさに三寒四温で、今日は暖かいなと感じる日が増えてきています。2月は逃げるといいますが、気が付いたら3月になっていました。春の食材も好きですし、だんだん日も長くなり暖かくなるので、春は好きな季節です。徐々に気候が過ごしやすくなるという点では、日に日に上向いていくイメージがあり、気持ちが軽くなる感じがするからです。
しかし、外来におかかりの方多くを見ていると、必ずしもいい季節ではないようです。むしろ体調を崩したり、気持ちが落ち込んでしまったりする方が少なくないような印象です。気温差や気圧の差といった気候の変動が大きいことや、転勤や入学、異動といった環境変化が大きなことがあげられると思います。秋口も、こうした変動はあるのですが、秋口よりも春先のほうが、不調になる方が多いと思います。気候変動と環境が同時にあるという意味では、新学期・新年度が春にある日本の制度はあまり良くないのかもしれません。
この季節は、多くのうつ状態の方が来院されます。うつ状態になった方へのアドバイスとしてまず伝えることは、なんだと思いますか?「休息をしなさい」でしょうか?わたくしは、まず「先のことを考えず、目の前のことや日常の活動に集中すること」を伝えるようにしています。うつ状態のときは、物事を悪く悪く考えます。この過程がさらに脳にストレスを与え、うつ状態を悪化させます。繰り返し悲観的な考えや悲劇的結末を考えることが、さらによりひどいうつ状態を引き起こすのです。
うつの時には不安です。自信もなくなり、気力も低下しています。こうしたときに先のことを考えると、ゴールが遠く感じさらに疲労してしまいます。あるいは、ゴールにたどり着けないとか、道に迷ってしまうのではといった気の迷いも生じます。こういう時は、とりあえず身近な目標、つまり今日一日のことだけを考えて行動するのです。数か月先のことは予想はできませんが、今日一日無事に過ごすことはよほどでなければ可能です。うつ状態で寝込んでいても、今日一日何とか生きのびることはできると思います。
わたくしも、疲れた時や色々悩みが生じた時には、今日一日のことだけを考えて活動するようにしています。今日一日の予定を確認し、そのことだけに集中して活動しそこから先のことは考えないようにするのです。先々のことを心配しても、それに対して今できることは限られています。もちろん将来に対して今日できることは実行しますが、それ以上余計なことを考えないようにします。そうして目の前の仕事や日常の決まった作業に集中していると、徐々に精神が落ち着いてくる気がします。私の場合は、日々の診療に意識を集中するとむしろ安心感がわいてきます。「こうしてきちんと診療ができているのだから大丈夫」と思えるようになってくるのです。主婦の方なら、家事でも育児でもいいと思います。会社員の方なら、目の前の作業でしょう。こうした日常活動に集中することは、一種の作業療法ともいえると思います。
作業に集中することで、不安や悩みを遠ざけることができるのではと思います。本当に重大な悩みであればあるほど、考えて解決することは困難です。しかるべき手を打ったらあとは時間を待つしかありません。こうしたときに、目の前の作業に集中して時の過ぎるのを待つ。こうした対処法もあると思います。ぜひ試してみてください。