おいしいもの、なあに

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当院のリワークデイケアの専門療法として、マインドフルネスプログラムを導入して2年が経過しました。導入当時はまだ世間的な知名度はそこそこで、大企業の研修やスポーツ選手のメンタルトレーニングで活用されているもの、というところでしたが、最近は以前よりも浸透してきたように感じます。

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『マインドフルネス』とは、『いま・ここの体験に注意を向け、ありのままに受け入れること』などと説明されます。自分自身の感情やわき起こる感覚、からだの状態、まわりにあるものをどうとらえているかなど、ふだんは強く意識せずに過ごしていることに焦点を当てます。『ふだん意識しないものを意識する』ということは、思った以上に難しいことです。

朝ご飯を食べるとき、靴を履くとき、電車に乗るため改札を通るとき……どんな行動をどんな手順でどんな感情でおこなっているか、いま尋ねられて詳細に語れる方はあまり多くないのではないでしょうか。こうしたことをいきなり考えることは難しく、余計にストレスを感じる方もいるかもしれません。なので、マインドフルネスの実践としては、呼吸法や瞑想法を使って『いま・ここの体験に注目する』ところからスタートします。マインドフルネス呼吸法に取り組むと、深い呼吸で自律神経が整ったり、そのためリラックスできたりといった効果が期待できます。

マインドフルネス実践を続けていく大きなメリットに、認知療法的効果があります。自分の内面でわき起こる様々なことに目を向け理解しようとするという訓練を続けることは、自分自身の感情や考えを意識的にとらえてコントロールしようとすることにつながっていきます。また、まわりにあるものを評価批判せずありのまま理解しようとする訓練を続けることは、他人やできごとをフラットにとらえて自分への影響をコントロールしようとすることにつながっていくのです。

前述のように、こうした訓練はとても難しいことです。リワークデイケアや認知行動療法プログラムでもじっくり時間をかけて習得するものです。そもそも、自分の内側にある感情に目を向けることが難しいからです。

そのため、マインドフルネス実践・初歩としておすすめしていることがあります。それは『おいしいもの、なあに』です。今日食べたもののなかで一番おいしかったものは何でしょうか。どんな味で、どんな見た目で、どんなところにおいしさを感じたのでしょうか。誰と食べて、どんな話をしたのでしょうか……。はじめは書くことがないかもしれません。毎日繰り返していくと、少しずつ書くことが増えていきます。それから、あとで振り返るためにきちんと体験しておく(=味わうことに集中する)ようにもなります。

このほかにも『よかったこと』『うれしかったこと』など、ポジティブな体験を振り返ってみてください。自分の内側を受け止めるためのよい土台づくりになると思います。