思い出の一冊

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こんにちは、坂井路子です。今回はいつもと趣向を変えて…おすすめの図書を紹介したいと思います。その図書とは、小学生のわたしのもとにサンタクロースが届けてくれた思い出の一冊『モモ』です。

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『モモ』は、『果てしない物語』でも知られるミヒャエル・エンデの児童文学です。相手の話に耳をかたむけ、そのひとのほんとうの部分を自然と話せるようにさせ、ていねいに聞くことができる小さな少女、モモ。モモは貧しいながらも多くの人々のあいだで、あたたかさのあるしあわせな日々を送ります。その生活にしのび寄る、人々の記憶に残らないように時間節約の契約をし、時間をぬすむ時間どろぼうの灰色の男たち。時間をぬすまれていることに気付かないまま時間節約に追われ、時間とともに心のゆとりを失っていく人々。―そしてモモはそんな人々のぬすまれた時間を取り戻すために…というお話です。

作中では、時間とは何なのか、『人生でだいじなことは成功すること』『たくさんのものを手に入れること』と掲げる世の中だが、効率化された仕事や余暇さえせわしなく遊ぶ生活がよいものなのか、完成されたおもちゃで遊び自らの空想を働かせることのない子どもたちはほんとうの遊びをできているのか、などが問いかけられています。

この作品のすばらしいところは、1970年代に発表された作品でありながら現代のわたしたちの社会にも通じる箇所にあふれているところ、それから、児童文学として子どもがたのしめるだけでなく、大人も考えるきっかけを与えられたり大切なことを思い出したりできるところだと感じます。わたしが『モモ』と出会ったのはもう20年前になりますが、読み直すたびに原点に立ち戻される気持ちになったり、新たに胸を打つ場面やことばと出会ったり…そしてあたたかな気持ちで本を閉じることができるので、何度も何度も読み返している作品なのです。

『時間とは、生きるということ、そのもの』『人のいのちは心を住みかとしている』『人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていく』…どれも、何となくふだん忘れてしまっているたいせつなことのような気がしませんか?

きっとみなさんのもとにも、『モモ』から、自分だけに響くメッセージが届くと思います。ぜひご一読ください。