うつ病を生活習慣からも治そう
こんにちは。あべクリニックの内田直です。
いま、うつ病は多くなっています。現実の生活の中には、色々なストレスがありそれが重なると、うつ状態が起こってしまうということがあります。このようなうつ状態には、誰でもがなる可能性があり、決して特殊な人がなったり、気持ちの弱い人がなったりするわけではありません。むしろ、人のために頑張っている人がなりやすい傾向さえあると思われます。
うつ病の治療には、薬物療法も非常に有効で、クリニックに通院して薬物療法を行うことも大切ですが、一方で更に生活習慣を改善することで、より健康な心身をつくりうつ状態を改善し、うつ状態に再び陥らない生活習慣を身につけることも大事だと言われるようになってきました。2013年の精神科医の一番大きな集まりである、日本精神神経学会では、「生活習慣病としてのうつ病」という題名でトピックフォーラムが開かれ、私もうつ病の運動療法についての発表を行っています。
健康な心身をつくる生活習慣は、大きく3つあり、運動、食事、睡眠です。これらはどれも重要ですが、運動はこれを行うことにより、食欲の増進や睡眠の改善が期待できるので、これら3つの中で特に重要です。このような生活習慣の改善から心身ともに改善をしていくという意味での、うつ病の運動療法について説明しましょう。
うつ病の運動療法
運動すると気分がすっきりするというのは、誰しも経験のあるところだと思います。これは、健康な人のみに当てはまることでしょうか。それとも、うつ病の症状としてのうつ状態の改善に役に立つのでしょうか。
このような視点で、運動療法をうつ病者の治療に応用することができるかどうかについての研究報告は1970年代からありますが、非常に大掛かりな研究は1999年のアメリカの研究です。アメリカのブルメンタールという研究者は、一定の条件を満たすうつ病患者さんたち合計156名を選びこれを約50名ずつの3群に分けました。これらの人の中には、かなり重症のうつ状態の人も含まれています。そして、それぞれの群を、抗うつ剤(Sertraline)だけで治療する群、薬は飲まずに運動療法だけで治療する群、薬と運動の両方を行う群に分けました。運動は、中からややきつい有酸素運動を週に3回30分間、16週間にわたって指導者のものとで行わせるというものです。この結果、16週間の後にはどの群も同じようにうつ状態が回復しています。そして、当たり前のことですが、運動をした群は体力が著しく向上しています。
このブルメンタールたちの研究が示すように、運動がうつ病患者さんに対して治療的に働く、つまり症状を改善させるという報告は次第に増えています。しかし、本当に運動だけでもうつ病が良くなるかどうかは、まだ研究が進んでいる最中でもあります。一方で、これまで運動によってうつ病が悪化したという研究は殆どありません。
運動による睡眠の改善
このほかに、運動は睡眠の質を向上させます。運動習慣のある人は、寝付きが良い、睡眠時間が長い、深い睡眠が多い、夜の途中で目を覚ます中途覚醒が少ない、などの良質の睡眠をとっていることが知られています。運動により睡眠の質が向上すれば、これがさらに日中の気分の向上を作るということも言えると思います。
運動療法のもう一つの利点
運動療法のもう一つの利点は、確実に体力が向上することです。うつ病によって休職すると、どうしても家に閉じこもりがちになってしまいます。そうすると、これまで通勤などでも歩いたり体を動かしたりしていた活動が無くなってしまい、次第に体力が落ちてきてしまいます。運動療法は、復職に向けて体力を回復する意味も大きくあります。また、運動によって、確実に体力は回復していくわけです。このような体力に支えられて、集中力なども向上し、またストレスに対する耐性もついてくると考えられます。このような点から、復職をスムーズに行うという点からも運動療法は重要と考えられます。当院では、リワークデイケアの一環としても運動療法プログラムを取り入れています。
運動療法の注意点
このように運動療法は良い点が多くありますが、これまで運動をしていない人がいきなり運動をするときには、気をつけなければならない点も多くあります。まずは、自分がこれまで運動した経験があれば、その経験に基づいて無理のないところから運動を始める。最初は、ウォーキングや、ゆっくりした短距離のジョギングで良いと思います。また、運動したことがなければ、ちょっと周りを歩いてみるというだけでも良いと思います。プールに行って、水中ウォーキングなども良いかもしれません。
もし、関節痛や心疾患などが指摘されている人であれば、整形外科医や内科医とも相談しながらやったほうが良いと思います。時には、運動療法が向かない人もいることも知っておいたほうが良いでしょう。
推奨される運動
現在までの研究を総合的に考えた場合にうつ病患者さんの運動として推奨されるのは
1.中強度以上の(有酸素性)運動を、
2.週3日以上行う、ということです。
これは、結局のところメタボリックシンドロームなどのために、推奨される健康運動とほぼ同じようなことです。つまり、心身ともに健康になるという視点では、うつ病は生活習慣病の一つと考えても良いケースも少なからずあると私達は考えています。
クリニックへの通院とともに、是非運動療法さらに生活習慣を改善し、心身ともに健全な体を作っていくことを心がけましょう。当院では、このような応援もしています。