毎日が雨ですね

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こんにちは、院長の阿部哲夫です。
本格的な梅雨に突入して、毎日が雨です。先月お話しした、朝の上野公園にはほとんどいけなくなっています。予想していたこととはいえ、毎日のひそかな楽しみがなくなってしまい、テンションが下がります。毎年、この時期をいかに過ごすのかが課題ですが、まだ妙案は見いだせていません。梅雨に雨が降らなければ、水不足となり植物の成長に支障があるとは理解していても、なかなか梅雨時を楽しく過ごすことができていません。

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(photo by M.K)

先日患者さんから、ホームレスになった元吉本芸人の話を聞きました。10年間、大阪で芸人をやっていたのですが、全く売れず東京へ。しかし、先輩芸人宅での居候生活も長くは続かず、結局ホームレスとなってしまったそうです。そこで始めたのが、一日500円で何でもやりますというバイト。500円では食べていけないと思いますが、さにあらず。500円ではかわいそうと、依頼主が大体食事をおごってくれるのだそうです。その結果、芸人時代よりも体重も増え、いろいろな人の好意に触れることができ精神的にも楽になったといいます。一日、500円で働くかわいそうなホームレスの男をいじめる人はさすがにいなくて、むしろ親切にしてくれるそうです。それまで、売れない芸人時代は誰もかまってくれなかったのが、誰かがやさしくしてくれる、それだけでも心が満たされるのだそうです。

この話を聞いて、とても面白いと思いました。もちろん、今の自分にはすべてを捨ててホームレスの生活はできませんし、まして500円で一日働くことは想像もできません。ある程度の収入は得ないといけないとか、そんなみっともない生活をしたら軽蔑されるのではといった、常識的考えがすぐに浮かんでしまいます。しかし、何かを得るためには何かを捨てなくてはいけません。ある程度の収入や社会的地位を得るためにはそれなりの努力が必要ですし、大きなストレスを抱えることも多いと思います。この元芸人さんは、こうした常識的考えを捨てることで、何か大きなものを得ているようにも見えないでしょうか?

つまり、この芸人さんは、社会的に成功しなければいけないという考えや多くの収入を得ないといけないという考えを捨てることで、人の好意や善意をより多く受け取ることができ、多くの精神的ストレスからも解放されている気がします。もちろん、家庭や家族がいる人には、不可能な選択です。将来の不安や、病気になった時の保証もないといった、デメリットもあると思います。しかし、それでも彼は大きなものを捨てる代わりに、それに見合った大きなものを得ていると思うのです。

こうした生活も、いずれは芸人として復活したときのネタにするのではないかという疑念もわきます。しかし、彼はそれは望んでいないそうです。なぜなら、自分がかわいそうな存在でなくなってしまったら、今までのような人々からの好意を受けられなくなると考えているからです。そこまで、自分を落とさなくてもいいのではと思いますが、確かにこれで売れてしまえば、社会的成功と引き換えに失うものも大きいのかもしれません。

こうして考えてみると、これは認知療法に通じる考えではないかと思いました。認知療法は、自分の中にある自動思考をみつけだし、それを再検討し修正することで自分を今縛っているものから解放するという理論のもとで行われます。認知療法の作業が、自分を縛っている自動思考を捨てることにより、何か別のものつまり精神的なストレスからの解放を得るということだとすると、この芸人さんがやっているのはまさにこの作業です。

雨の多い梅雨は気分が晴れないといった、単純な自動思考?からも解放されない自分には、もうすこし高度な自動思考を克服するのは困難かもしれません。