最近は、アルツハイマー病を代表とする認知症について、関心が高まっています。一つには社会の高齢化に伴う、認知症の増加であり、もう一つは認知症の治療薬の開発です。従来、治療薬としてはアリセプト(ドネペジル)のみしかありませんでしたが、ここ2-3年で、レミニール、イクセロンパッチ、メマリーといった新しい薬が開発され、アルツハイマー病が治療可能な疾患としてクローズアップされてきています。もちろん、こうした薬は万能ではなく、その効果も限定されているものと言わざるを得ません。しかし、明らかに効果のある薬剤がなかった時代に比べれば、大きく進歩してきていると思います。
最近は、当院に受診される患者さんの認知症の占める割合が増えてきています。以前は4~5%の割合でしたが、新たらしく受診される患者さんに限って言えば、10%近くに増えてきています。その原因は、従来の一剤しか治療薬のなかった時代に比べ、治療薬の選択肢が増える中、より専門的な治療が求められてきているからだと思います。そうした意味でも、精神科や神経内科などの認知症専門医の役割がより大きなものになってきていると考えられます。
こうした状況の中、最近気が付かれるのは、ごく軽度の認知症のはじまりの方が外来を受診されることが増えてきていることです。テレビ番組やテレビコマーシャルで認知症が取り上げられる機会がふえたことも一因でしょう。こうした番組の放映後には、テレビを見て不安になった方ご自身が、みずから進んで受診されます。こうした方の多くは、正常の方が多いのですが、中にはごく軽度の認知症の始まりの方がいらっしゃいます。こうした病態は、軽度認知機能障害(MCI:Mild cognitive impairment)と呼ばれます。
この軽度認知機能障害(MCI)とは、いわば認知症の前段階といえる病態です。最近記憶障害が自覚されようになったり、他人から指摘されるようになったが、日常生活では支障がなく、認知症とは診断されない方々です。このうちの、70%の方が認知機能障害が進行し数年間ののちには認知症になるといわれています。こうした、ごく軽度の認知症はなかなか発見が難しいのです。生理的な物忘れと進行性のMCIを判断することは、専門医でも難しいといわれています。厳密に診断するためには、認知機能検査やMRIなどの画像診断やせき髄液の検査など多角的な診察が必要とされています。
しかし、放置すれば認知症になるとすれば、これを予防できないのでしょうか?多くの認知症の薬には、認知症の進行予防の効果があります。それと同様に、軽度認知機能障害の方に、こうした認知症の薬を服用していただけば、認知症の発症の予防やあるいは発病時期を遅らせる効果があると考えらえます。そうした意味においても、このごく軽度の認知機能障害を発見することは、多くの病気と同様に早期発見早期治療の原則にかなっていると思います。もし、最近物忘れがひどくなった。人に物忘れを指摘さることが増えた、あるいは以前になかったちょっとしたミスが増えたなどの自覚症状のある方は、こうした時期に専門医を受診されることをお勧めします。