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こんにちは。院長の阿部哲夫です。
毎日うだるような暑さです。今も蝉時雨の中で原稿を書いていますが、決してこの暑さは嫌いではありません。小さい頃に刷り込まれた、暑さ=夏休み=楽しいという公式が潜在的にあるためか、何か夏になるとウキウキしてきてしまいます。今年の夏も、熱中症にならない程度に外に出て活動しようと思っています。
先日ある講演会で、精神科のドクターの講演を聴きました。私は、自分が講演したりあるいは講演会の司会をしたりする機会も多く、月に数回は精神科関係の講演会に参加しています。他の精神科の先生と交流すると、新しい知見に触れることもできますし、自分の診療の改善のヒントになることも少なくありません。このためもあり、時間が合えば講演会に参加して勉強させてもらっています。こうしたなかでも、その講演会にはかなり刺激を受けました。

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その講演会の題目は、「患者・家族による主治医の評価質問紙の調査結果について」といったありきたりのものでした。当初はあまり期待しないで会場に行ったのですが、内容を聞いて驚きました。ドクターご自身の母親が統合失調症で、自分も過量服薬や情動不安定で受診歴があるという話から講演が始まったからです。統合失調症の母はほとんどネグレクト育児放棄状態で、自分が高熱を出しても放置されていたそうです。11歳にして自分のことは自分で守るしかないと覚悟したといいます。こうした状態で、父も家庭を顧みず愛人宅に入り浸り生活費も入れてくれず、結局離婚。自身は父親に引き取られ、再婚した父親の後妻さんの連れ子といっしょに暮らすようになったそうです。それからは、自分はいないほうがいいのではと自己否定的となり、医学部には入学したものの自殺企図を繰り返し、やっとのことで卒業。卒業はしたものの、どこの科も引き受け手がなく、ようやく主治医であった精神科の教授が研修を引き受けてくれたのだそうです。

こうした壮絶な生育歴あるいは病歴をカミングアウトするには、かなりの勇気がいるのではないかと思います。世間はまだまだ精神障害に対する偏見は根強く残っています。そのなかで医師の家族が精神障害であった、更には医師自身が精神障害であったと公表することは大変なことです。現在は開業されて診療を行っていると聞き、更に驚きました。ご本人もおっしゃっていましたが、公表したことで患者さんが来なくなるのではと不安になったそうです。

しかし、失うものもあれば得るものも大きかったそうです。こうしたご自身の経験を本として出版してからは、多くの当事者やご家族から激励の手紙をいただいたそうです。つまり、こうした状況から回復された手本として、多くの患者さんやご家族に勇気を与えたのではないでしょうか。

このような経験のある精神科医が、ご自身の使命として医師患者関係についての調査研究をされたのです。多くの患者さんや家族にアンケート調査を実施し、医師患者関係についての評価をされています。その結果の中では、意外とおっしゃっていましたが、現在の主治医に対しては高い評価をしているということでした。現在の担当医とは十分意思疎通が図られているという結果だったそうです。しかし、現在の担当医師に巡り合うまでに平均3回担当医を変えているという結果もありました。つまり、現在の主治医とは上手くコミュニケーションは取れているが、そうした医師に巡り合うまでに何回か転院しているという結果だったのです。

そのほかにも、患者さんの声の中には厳しい意見もあり、とても参考になりました。日々の診療の忙しさに流されて、患者さんの言葉を十分に汲み取っているか、そして患者さんに真剣に向き合っているのかを自問するいい機会でした。この結果は今、論文にするべくまとめているところであるとのことでした。発表されたらぜひ拝読させていただきたいと思いました。

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